微笑み
またまた
草彅剛さんの演技についてくどいようだけど書いてます。
ほんとに余計な台詞はいらないの。
その表情で心の声がきこえくるんだよね。
不思議でしょ。
それこそが草彅マジックのなせる技。
ほら、見て、この慶喜公の表情
誰を思って、こんなふうに微笑んでるんでしょうか。
菩薩様の微笑みのようです。
慶喜のこの笑顔の向こうには平岡円四郎がいるよ、絶対に。
円四郎だからこんなに優しく笑えるんだよ。
それくらい、ふたりの絆は強くて深くて愛がある。
うまく言えないんだけど
見てるだけで心がぽかぽかしてくるんだよね。
知らず知らずのうちに、自分の中に巣食う醜いものが溶け出して
周りの空気が和らいでほんわかして
幸せだな、て感じるの。
栄一がパリに滞在してる間に日本は大きく変わります。
大政奉還し徳川の世は終わりを告げ、慶喜は駿府にて謹慎の身。
そんななか、パリから戻った栄一は、
駿府藩中老大久保一翁から、駿府藩で勘定組頭として勤めるよう命じられます。
水戸には行かせたくない。
平岡円四郎の二の舞にはしたくない、と慶喜が、栄一の身を案じ、考えた末の駿府藩での勘定組頭として仕官せよとの有り難きお言葉。
そんな慶喜のお気持ちを知り、
「思慮が足りず恥ずかしい限り。上様の思し召し通り駿府に止まるが、勘定組頭への士官は辞退させていただきたい。」
と、栄一は頑なに考えを変えない。
徳川家の懐具合を考えて、その仰せを断り、「百姓の矜持として禄をいただかず、この地で百姓か商いをして、心穏やかに余生を過ごしたい。」
と返事をする。
その報告を受けた慶喜は
「百姓の矜持。やはり、おかしろき男だ」
と口許をゆるめて、呟くんだけど
この時の微笑みがね、もう神過ぎて言葉も出てこない。太陽神であり、女神でもあり、ありとあらゆる神様が宿ったような、そんな心静まる、温かい笑顔。
その笑顔から聞こえてきたのは
慶喜と側近中の側近平岡との
こんなやりとり。
「円四郎よ、そなたがいつも申しておった通り、渋沢栄一という男は、実におかしろき男よ。」
って。
それを聞いて
円四郎は、「さようでございましょ」と、殿を見上げてニヤリと笑うの。
ふたりで笑いあって
幸せな光景が広がっていく。
円四郎の肉体は滅びても魂は、未来永劫、慶喜のお側に。
だって円四郎は慶喜と約束したんだよ
「この平岡円四郎が尽未来際どこまでもお供つかまつります」
って。
武士に二言はない。
だからね、
円四郎はいつだって殿をお守りしてるの。
慶喜のお側に控えてるんだよ。
その様子をご覧になられた大久保一翁が
「先さまもあのようなお顔をなさるのだなぁ」
としみじみと言われるんだけど
きっと、大久保様も安心なさったんだと思うのよ。
先の上様は孤独じゃなかった。
命を賭して上様を守った者がいて、今は、その者たちの思いを受け継いだ渋沢がいる。
その者を前にすると、自分を押し殺すために
つけた能面をはずして、心を全開になさるんですね。
その瞬間を一翁は見たのだから。