円四郎の存在
何をしても
どこにいても
円四郎を思わずにはいられない慶喜を見てるのが辛いのです。
髪を結ってもらいながら
円四郎を思いだし、心が痛んでるね、慶喜様。
鏡に映るお顔がとてつもなく暗く厳しい...
いまだに、円四郎の死を引きずってるのが手に取るように伝わってくる。
そして、いつもそばにいて的確な助言をしてくれた円四郎の存在の大きさを感じずにはいられない。
あれほど
戦争はならぬ。と、反対してた慶喜なのに、
長州との戦が避けられない事態となり
天子さまをお守りするため、自ら長州征伐の陣をひきいることになってしまったときも
「戦となれば薩摩が手を叩き喜ぶだけ」
との円四郎の言葉に逆らう形になったこと、
江戸幕府開府以来はじめて
京を舞台にした大きな内戦となったこと。
に、忸怩たる思いにかられてたと思う。
だから、慶喜も必死。
恐れをなして逃げようとする兵士には
「逃げるな!そたなも武士であろ、戦え!」
と怒号を飛ばしながら皆の士気を鼓舞する。
鉄砲の弾が当たっても
「大事ない!」
と、鬼の形相で指揮を執る。
そのときのこの凛々しいお姿。
力強い眼差しには
慶喜の、円四郎と共に生きてく強い決意を感じてしまい
思わず涙してしまうのです。
タイミングを見計らって薩摩が参戦。
長州は壊滅。
幕府の大勝利で終わります。
薩摩の西郷隆盛から
「一橋さまに比べればなにもしてない」
との言葉をかけられたときには
草彅慶喜は、無表情な仮面の下にある、薩摩への不信感をありありと見せつけてくる。
「ご苦労であった」と一言だけ、変わらぬ表情それだけ。
見事だった。鳥肌たちました。
それに対する西郷の
図々しさに私呆れながらも
これがこの人の強みだね、と思ったし。
やっと、やすが円四郎の手紙を掛け軸の裏側から見つけてくれて悲しみと同時に嬉しかったのよ。
やすにも幸せになってもらいたいから
平岡円四郎に縛られないこれからの人生を送って欲しいんだ。
やすへ
この文を見つけたってことは今おめえは俺がいなくて、つまらねぇで寂しくて仕方ないってことなんだろうな。
しかし悪いが勘弁してもらいたい。殿には俺が入りようなんだ。これほど御使いしたい方に御使いできる俺は幸せ者だい。殿との出会いで俺の生きざまはまるでもやがはれたように変わっちまった。苦労も多いがやりがいがある。人の人との縁はまことに不思議なもんだ。 何度も何度も女で失敗してようやくおめぇに出会えたのもこれしかり。
我が殿はきっとこの先新しい日本を作ってくれる。
(鳥の泣き声がしてきた。やっぱり、円四郎は鳥になったんだよ。)
やす、おれはお前とその新しい日の本をみる日が今から楽しみでならねぇんだ。
そんときがきたらまた二人で江戸の町をぶらぶら歩こうじゃねぇか。さあて、どんなふうにかわっちまうのか検討もつかねぇな。
きっとめっぽうおかしれぇに違いねぇ。
私ね、
大きな勘違いしてた。
円四郎は、水戸の藩士から狙われてることで万が一の時のことを考えてやすへの遺書を掛け軸の裏に隠したんだろうとひそかに思ってた。
だけど、円四郎は自分が死ぬなんてこれっぽっちも思ってなかった。
慶喜が作るにちがいない新しい日本をワクワクしながら心待ちしてた。
そして、その日の本で、やすと共に楽しんで生きてく希望を持ってた。
恋女房にしたためた愛情たっぷりの文を、笑いながら泣きながら読み進めるやすの美しいこと。
円四郎さま、あなたはどこまでも前向き。
そのときその時を精一杯楽しみながら生きてる。
だからこんなふうに優しく笑うことが出来るんですね。
そんな円四郎から命じられた任務を終え
渋沢篤太夫と成一郎が京の一橋家に戻ってきます。
そこで慶喜と対面。
慶喜は二人にこう問いかけます。
「そなたらは、父の尊攘の教えを学んだと申しておったな。
円四郎は父が私につかわせたのだ。それがなぜ水戸のものに殺されねばならぬのか、そなたたちにわかるか?私にはわかる。円四郎は私の身代わりとなったのだ」
重苦しい哀しみがその場を支配していく。
川村恵十郎もそこに居た。
主君を守れず、こうして生きながらえてる自分を責め、
泣き声を出すまいとしてるかのように口をギュッと固く閉じた、
その瞳からは涙が溢れ落ちてる。
顔の刀傷が生々しく痛々しい。
波岡さん、さすがの存在感。
この台詞無しのワンシーンのみの出番なのに、
私の気持ちあっというまに持っていっちゃった。
「尊皇攘夷か。誠呪いの言葉に成り果てた」
尊敬する父の教えを全否定せねばならぬ、慶喜の苦しみと
その攘夷に我が忠臣を殺された無念な思い
瞳が潤んでいく。
涙をごくっと飲み込んで弱々しく立ち上がり去っていく姿にはいつもの颯爽とした清々しさはない。
その場に居たたまれず逃げ出すかのような空気を纏ってた..
もう演技じゃないんだよね。
そこにいるのは、平岡円四郎を失って
川村同様、自分を責め、無能を嘆き、迷子になってる、慶喜というひとりの武士。
そんな慶喜に追い討ちをかけるかのように、苦渋の日々はまだまだ続く。
藤田東湖の息子に懇願され、天狗党を率いることになった武田耕運斉が
「烈公の尊皇攘夷のお心を朝廷にお見せするための上洛じゃ。京にはそのお心を一番よく知る一橋様がいらっしゃる。われらのことを見殺しにはなさるまい。」
と、京をめざして軍を進めてきたのだ。
「京を守るのが私の役目だ。
天狗党を討伐する。」
そう決断せざるをえない、慶喜の胸の内を思うと辛すぎるよ。
武田耕運斉の本心はどこにあったんだろう。
慶喜に討ち取らせるための
上洛だったのか。
慶喜なら我らを悪いようには扱わないだろう、そんな甘い期待があったのか。
円四郎が側にいたら、
ここまで無駄な血を流すこともなかったんじゃないか。
いろんな思いが脳裏を駆け巡る。
おかしれぇ日の本は
ほんとにたくさんの大切な命が犠牲となって誕生していったんですよ、円四郎様。
烈公は
どんな思いで、日の本の、この一連の成り行きを見てたのでしょうね....
まだまだ円四郎の影を私も引きずりそうです。