父ちゃんの色気
男の色気ってなんだと思いますか?
筋肉隆々な見事な肉体を惜しげもなくさらして、セクシャルなホルモン撒き散らす人の色気は、直接視界に強烈にアピールしてくるから一気に熱量もあがりますよね。
それに加えて流し目なんかされたもんなら、その駄々漏れの色気に、間違いなく女性ホルモン出っぱなしになる。
でも、それは努力が生み出す色気だと思うのですよ。
肉体美も流し目も、
いかに自身を美しくかっこよく魅せるか、鏡にむかって自分をよく知り、磨きをかける、そんな本人の努力あってのものだと思うんです。
ほんとの色気って、
例えば、ふとした目線ひとつで巧みに言葉を操られたら、きっと私の心臓は勝手に大きく波打っちゃう。
何気ない会話のなかで、
あるいは、その人が通りすぎたあとにまで余韻が残る。
そんな彼、あるいは彼女が残すものって
いつまでも追い求めたくなりませんか?
今公開中の、映画「まく子」
草彅剛さんが主人公サトシの父ちゃん光一役で出演してます。
父ちゃんは旅館あかつき館の料理長です。
その父ちゃんがふら~とあらわれ、
腰に手を当ててタバコをふかしながら、一言残して立ち去ります。
たった数秒のわすがなシーンなのに、その存在が
記憶に残るんです。
余韻を残していくんです。
そしてその余韻に酔いしれてしまう。ほんとにニクい父ちゃんです。
この父ちゃん、どこか投げやり、無気力漂わせながらも、ゾクッとする艶があるんだなぁ。
その場からいなくなっても、父ちゃんはそこにいるんですよ。
その存在感たるや、なんてこと。
その夜、父ちゃんは電話で誰かと話してます。
その会話の内容から、愛人ですね。
その言い方が小憎らしい。
エロいんです。
そんな行為を連想させる下品な言葉は一切ありません。
ごく普通のデートの待ち合わせをしてる者同士の会話なんだけど
でも、エロいの。
口調というか、声の出し方、抑揚というか、
とにかくそのあとを連想しちゃう。
激しい愛撫シーンなんか全くなくても
変なドキドキに襲われる、見事な官能シーンに、
私はこれこそ、草彅剛新境地を開いたと思いました。
そのあとに、予告にもあるように、雨のなか、佇んでる彼女の傘のなかに入っていくんだけど、ここね、音声は入れてません。だけど、二人の甘えた会話が聞こえてきそう。心はすでに絡み合ってて、濡れ場のように見えてしまう。
ただならぬエロさにくらくらしてきます。
かといってどろどろもしてないでしょ。
美しいとさえ思ってしまう。
監督の演出もカメラワークもさることながら、
草彅剛さんの醸し出す雰囲気に呑まれてしまいました。
可愛い女の子には
スケベ親父まるだしのヘラヘラ笑いを浮かべちゃって、やれやれ、と呆れてしまいます。
なのに、軽蔑するとかそんな感情は不思議とおこらない。
どこかで許してしまうの。
チャーミングなんだよね。
人たらし、まさにそれ。
それに、タバコをもつ手、
綺麗な手。色白な手。
"指先の綺麗な男は不実だ"
昔、私がどっぷりはまったドラマのなかのセリフです。
そんないい加減な父ちゃんだけど、
子どものこと、決して蔑ろにはしてない。
父ちゃんは、女の扱いはうまいんだけど、子供への接し方迷子なんだと思う。
サトシのこと、愛しいのに
奥さんのことだって嫌いなわけでもないんだろうに。
不器用なんだよ。
サトシのためにお握りを握る父ちゃんの手、
サトシの頭をくしゃっとする父ちゃんの手、
父性が溢れてた。
サトシをみつめるこの瞳
優しく深く愛しく子を思う父の気持ちが伝わってくる。
それでいて、無精髭の艶かしいこと。
そういえば、美輪明宏さんが
「色気とは仕草や形ではなく、精神的に相手を包んであげる上品な優しさのこと」
と言ってたっけ。
父ちゃんの色気は
その優しさから溢れてきてるのかな。
つかさん、あなたがこの世に送り出した、草彅剛という大天才は
あなたの想像をはるかにこえてきてませんか?
今の剛をつかさんならどう演出するんだろ。
役者草彅剛をおもうとき、最後に行き着くのはいつもそこになる。